4章 注意
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4-1. 注意の適応的な役割
4-1-1. 情報の取捨選択
感覚情報の量があまりに膨大なのでとても全部は処理しきれない
ある時点で適応的な行動に必要な情報は限られているので、無理にすべての情報を処理する必要もない
パスとシュートの回数を数える実験
派手な傘をさした女性が通り過ぎても気が付かない
注意を向けない情報は認知されないが、注意を向けた情報は認知される性質
4-1-2. 突発的な情報
特定の情報だけに注意を集中していたのではつねに適応的な行動がとれるとは限らない
注意は突然現れた重要な情報をキャッチするという機能も備えていなければならない 4-2. 視覚的注意
4-2-1. 視覚的注意
注意は情報処理のかなり早い段階から働いている
形の違う図形をできるだけ早く見つける
ターゲットの形状によって図形の数の影響が顕著になる
実験では曲線のターゲットはすぐに発見できる
4-2-2. 特徴統合理論
細分化された情報(特徴)は注意を向けなくても認知することができる。
したがって、直線という特徴のなかの曲線という特徴はポップアウトする。
特徴の検出に注意はいらないのだが、複数の特徴を結合するためには注意が欠かせない 特徴は同じだが結合の仕方だけが違う場合は、一つ一つ走査。検出のための時間がかかる・
網膜が捉えた画像の特定の位置に注意が注がれると、その位置にある様々な特徴(線の傾き、曲率、色など)が統合され、物体の 表象(representation) ができあがると想定している。 細分化された情報を統合する段階から注意が必要
注意はスポットライトのようなもの
4-3. 選択的注意
4-3-1. 両耳分離聴
ブロードベンド: ケンブリッジ大学の心理学者。認知を情報処理として理解する試みをはじめた最初の心理学者の一人 2代のテープレコーダーで右耳と左耳に別々の音声。実験参加者はどちらかの耳の文章を 追唱(shadowing) する。 実験者は実験参加者がいかに努力しても90%くらいしか追唱できないようにしておく
チェリーが調べたのは追唱をしなかった耳に聞こえてきた文章をどれだけ認知していたのか
内容は全く理解していなかったことがわかった
英語→ドイツ語→英語に変えても気が付かなかった
テープを逆回しにした意味不明の音声を途中に挟んでも気が付かなかった
男性→女性→男性の、声の変化も認知していた。
4-3-2. フィルター・モデル
チェリーや自身の実験結果の説明を試みた
人間の情報処理は大きく2段階に分かれる
1.感覚器官から入ってきた情報の物理的な特性が並列的に処理される
並列的: 目から入ってきた情報も耳から入ってきた情報も同時に処理される
この処理に注意は不要
フィルター
必要な情報だけを第2段階へ通し、他の情報は全部シャットアウトする
選別は情報の物理的な特性に基いて行う
2.系列的に行われる情報処理
ひとつひとつの情報を順番に処理していく
意味の分析
この処理には注意が必要
両耳分離聴の実験の解釈
両耳とも物理的な特性は第1段階ですべて分析される
人間の声と純音では音の物理的な特性が異なる
人間の声でも男性と女性の声えは物理的な特性が異なる
したがって、追唱していない方であっても、純音に変わったり、性別が変わると変化が検出できる
しかし、情報はフィルターでシャットアウトされてしまうので意味が理解できるところまではいかない
英語とドイツ語、テープの逆回しなどは、物理的な特性はほとんど変わらない
第1段階の分析ではその変化を検出できない
4-4. 分割注意
4-4-1. 分割注意の実験
フィルター・モデルと矛盾するようにみえる事実をオックスフォード大学の学部生達が報告
左耳に「Mice, 5, cheese」、右耳に「3, eat, 4」
ブロードベントが考案したアプローチを改良し、一つの文や句を両耳にわけた(もとは"Mice eat cheese"など)
実験の結果、どちらの耳に聞こえてきた単語・数字もかなり高い割合で聞き取れていた。
この結果はフィルター・モデルでは説明がつかないようにも見える
どちらの耳にも聞こえてくる情報も処理するだけの余力があるのであれば、フィルターでシャットアウトする必要はない
チェリーの実験にくべると課題はずっと容易であり、注意を療法の耳に振り分ける余裕があったのだと考えることができる
4-4-2. 減衰モデル
トリーズマンはチェリーの実験と同じように追唱をしなければならない実験でも、例えば右耳に聞こえてくる文章を追従していた場合、その文章の続きが左耳に聞こえてくると、そちらの方を追唱してしまう場合があることを見出した(Treisman, 1964) また、追唱していない左耳に自分の名前が聞こえると、それを覚えている場合があることも見出した。
フィルター・モデルが想定しているように、追唱していない方耳に聞こえてくる文章が完全にシャットアウトされてしまうならこのようなことは起こりえない
感覚器官から入ってくる情報が物理的な特徴にもとづいて選択される
選択されなかった情報は完全にシャットアウトされるのではなく、減衰されるだけ
4-5. 資源理論
4-5-1. 同時処理の難易度
追唱という困難な課題を遂行している最中には注意を向けていない方の情報を検出することはやはり容易ではない
課題があまり困難ではない場合には2つの情報処理を同時に遂行することはそれほど難しくない
実験参加者はほぼ正確に解答をすることができた
反応時間には影響が出た
信号検出課題単独と比べて、マッチング課題を同時に行った場合には300ms遅くなった
4-5-2. 資源理論
追唱課題はほぼすべての資源を使わなければならなかった
ポズナーとボイズの実験の場合は同時に遂行することができた。
両方を完璧に遂行するには資源がやや不足したので反応時間に影響が出た
この資源理論は現在でも様々な現象を説明するために使われている。
資源の正体はよくわかっていない
多くの研究ではエネルギーのようなものとしてイメージされている
実際、脳細胞が活動するにはエネルギーが必要で、活動している脳部位には血液が集まることが知られている。
コンピュータとの類比で考えるとCPUのメモリ(RAM)のようなものだとも考えることもできる 作動記憶の研究でも使われるようになった。
4-6. 自動化
4-6-1. 自動化と資源
ある作業に習熟すると注意をほとんど使わずにその作業ができるようになる
ある作業が自動化すると、注意資源を他の作業に使える
4-6-2. 分割注意の訓練
黙読と口述筆記を同時に行う
この2つを同時に行うのは非常に難しい
黙読だけ→500words/min、口述筆記と同時→300words/min
1回1時間、週に5回の割合で続けたところ、黙読の速さは次第に回復していった
6週目には黙読だけと遜色ない速度
自動化
4-7. 注意の捕捉
4-7-1. 予期せぬ事物に気づく
全く予期していなかった感覚情報にもすばやく注意を向けて詳しい情報処理を行う必要がある
4-7-2.実験的な検証
ボックスのどちらかにターゲットが出る→参加者はキーを押す
注視点を凝視→2つの内のボックスのどちらかが光る→ターゲットがどちらかに出現する
光った方のボックスに出現する確率は80%
手がかりなし条件と比べると、手がかりあり条件は反応時間が短い
ボックスが光るという手がかりに確かに注意が惹きつけられるということを示している
この実験でボックスが光ってからターゲットが出現するまでの時間は200msより短かった
眼球を動かすまでに200ms以上かかるので、この実験では注意だけを光ったボックスの位置に移動したということになる。
この実験では視線とは独立に注意を移動できるということも示している
4-8. 意識と無意識
4-8-1. 注意と意識
Sと|だけの画像でも$があったと錯誤
Sや|は注意を向けなくても検出できる
特徴と特徴の統合を正しく検出するためには特定の位置に注意を向ける必要がある
この実験ではごくわずかな時間しか見ることができないので画面のすべての位置に注意を向けることはできない
一方$に対するトップダウンの感度が高まっている
そのためSと|が結合した$が誤って認知されてしまう
この説明が正しいとすれば、結合錯誤が起こるのは注意が向けられなかったから
他方、結合錯誤の結果、$が意識された
注意はされていないが意識はされている。2つは明らかに分離している
4-8-2. 意識と無意識
大概の場合は、情報処理の結果をモニターしながら推進すべき情報処理を決定しているので意識と注意を截然と分けることは難しい
心理学では意識の研究はまだあまり進んでいない。
意識そのものよりも無意識的な情報処理を研究対象としてきた 言葉を紙に書いてそれを100分の1秒くらいの非常に短い時間だけ見せ、露出時間を少しずつ長くしていく
「ペニス」のような性に関するタブー語の提示したときは認知閾が高くなった
マギナスの解釈
露出時間が短くて意識的には見えていないときでも、実は無意識的には見えている
タブー語の場合はそんな言葉は見舞いとする無意識的な力が働く(知覚的防衛) 見まいとしてもどうしても見えてしまうような長い露出時間になるまで意識的には見えないという状態が続く
※この実験は性革命以前に行われたということを考慮する必要がある
4-8-3. 知覚的防衛実験の別解釈
無意識の認知という解釈は不自然という立場から別解釈を提案 実験参加者はタブー語の場合も普通の言葉と同じ露出時間でおあんじように見えているし、意識的にも認知されている
余りはっきり見えないうちに「ペニス」などと応えてそれが間違っていた場合には恥ずかしいので十分にはっきり見えるようになるまで答えるのを遅らせていただけだ
4-8-4. 実験方法の改善
画面を見せ、露出時間を少しずつ長くしていく
実験参加者はユダヤ人で、ユダヤ人にとってのタブー図形(ハーケンクロイツ)が画面中央に提示されている
実験参加者が報告しなければならないのは周辺の図形
この実験では画面の中央にタブー図形が提示された場合は、普通の図形が提示された場合に比べて、実際に認知閾が高くなった。
このような実験が色々と行われた結果、現在では意識されなくても認知がなされる場合があるということは、かなり広く認められるようになってきた
実験結果からその存在を推測しなければならない
露出時間が短くて文字の形が明瞭に見えないときは文字の部分的な特徴だけがいくつか抽出されるということが起こりうる
部分的特徴に基づいて似たような複数の言葉が候補として浮かんでくるという状態になることもありうる
情報処理はまだ完結していないので、これらの候補が意識にのぼることはない
タブー語は性との連想関係が無意識に想起され、そのため、タブー語には無意識のうちに抑制がかかり認知が遅れる
無意識の認知は特に不自然でも神秘的でもないということがわかる。
認知心理学が明らかにしてきた人間の情報処理プロセスと矛盾しない。